アルミ鋳造、鋳物、金型を一貫請負

アルミダイカストの価値を決める「二次加工」の全貌:切削・タップ・表面処理のコスト削減と品質向上の実務ノウハウ

製造業の経営層、そして調達・購買責任者の皆様。「アルミダイカスト」と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか。多くの場合、「高速・大量生産」「複雑形状」「低コスト」といった鋳造工程そのものに焦点が当たりがちです。しかし、アルミダイカスト製品の最終的な品質、機能、そして総コストを決定づけるのは、鋳造後の「二次加工」に他なりません。鋳造はあくまで素材(ブランク)を作る工程であり、製品として機能させるためには、寸法精度を出すための切削加工、部品を締結するためのタップ加工、そして耐食性や意匠性を付与する表面処理が不可欠です。

残念ながら、この二次加工のノウハウが乏しいサプライヤーを選定したがために、「鋳造は安いが、後加工で不良が多発し、結果的にコストが跳ね上がった」「タップの品質が安定せず、組み立てラインが頻繁に停止する」といった問題に直面するケースは後を絶ちません。

この記事では、アルミダイカスト製品の付加価値を最大化するために不可欠な「切削」「タップ」「表面処理」という3つの二次加工に焦点を当て、その実務的なノウハウと、品質を担保しながらコストを最適化するための調達戦略について、専門的な知見から徹底的に解説します。

なぜアルミダイカストに二次加工が不可欠なのか?

アルミダイカストは、溶融したアルミニウム合金(ADC12などが代表的)を高速・高圧で金型に射出する製造法です。この特性が、二次加工を必須とする理由に直結しています。

「鋳造しっぱなし」では終わらない理由

ダイカスト製品は「鋳肌(いはだ)」と呼ばれる鋳造されたそのままの表面を持ち、高い寸法精度を誇りますが、その精度には限界があります。

  1. 寸法精度の限界: 一般的なダイカストの寸法公差は±0.1mm〜±0.3mm程度です。しかし、モーターの勘合部やベアリングの圧入部など、ミクロン単位(例:±0.01mm)の精度が要求される箇所は、鋳造のみで実現することは不可能です。これらの高精度が求められる部分は、必ず後工程としての切削加工(マシニング加工)が必要となります。
  2. 機能性の付与: 製品は多くの場合、他の部品とボルトで締結されます。そのための「ねじ穴」は、鋳造で形状を作ることはできても、実用的な強度を持つねじ山を形成することはできません。タップ加工(ねじ切り)が必須です。また、アルミは錆びにくい金属ですが、特定の環境下(特に異種金属接触腐食)では腐食します。さらに、そのままでは導電性を持っており、絶縁性が必要な場合や、耐摩耗性を高めたい場合、あるいは外観部品として特定の色を付けたい場合には、表面処理(アルマイト、塗装など)による機能付与が求められます。

二次加工がコストと品質に与える決定的な影響

二次加工は、製品の総コストと品質安定性に極めて大きな影響を与えます。例えば、ダイカスト専業メーカーに鋳造を依頼し、別工場で切削、さらに別の工場で表面処理を行う「工程分散」は、一見コストが安く見えます。

しかし、実際には「工場間の輸送コスト」「各工程での受入・出荷検査の管理工数」「不良発生時の責任所在の曖昧さ」といった「見えないコスト」が膨大に発生します。ある事例では、ダイカストから精密加工、検査までを一貫して行うことで、切削加工後の巣(内部欠陥)不良が改善され、不良率が10%から1%にまで劇的に低減したケースも報告されています(出典:OEM・EMSパートナーズ)。

二次加工のノウハウは、単なる「作業」ではなく、鋳造工程の特性(どこに巣が出やすいか、どういう歪み方をするか)を熟知した上で、加工順序や治具(製品を固定する器具)を設計する「技術」なのです。

【切削加工】最大の敵「構成刃先」を制する実務ノウハウ

アルミダイカスト(特にADC12)の切削加工における最大の課題は、「構成刃先(BUE: Built-up Edge)」です。

構成刃先とは、切削中に発生する摩擦熱でアルミニウムが軟化し、工具(エンドミルやドリル)の刃先に溶けてくっつき、それが成長・脱落を繰り返す現象です。これが製品品質に致命的なダメージを与えます。

構成刃先が引き起こす4つの品質不良

  1. 表面粗さの悪化:構成刃先が脱落する際、加工済みの表面をむしり取るため、表面がザラザラになります。
  2. 寸法精度の不安定:刃先にアルミが付着することで、実質的な刃径が変わり、穴径が小さくなったり、溝幅がバラついたりします。
  3. 工具寿命の短縮:構成刃先が脱落する際に、工具本体の刃先(超硬など)も一緒に欠けさせてしまう(チッピング)ことがあります。
  4. 加工精度の低下:構成刃先が成長すると切削抵抗が増大し、薄肉の製品では「びびり(振動)」が発生し、精度が著しく悪化します(出典:THK株式会社 OMNIedge)。

対策1:工具選定(ポジティブすくい角、ダイヤモンド/CBN工具)

構成刃先を防ぐ基本は、「いかにスパッと切るか」です。 アルミニウムのような柔らかい金属(軟質金属)には、刃先の「すくい角」がポジティブ(鋭角)な、切れ味の鋭い工具を選定するのが鉄則です(出典:HILLTOP株式会社)。すくい角がネガティブ(鈍角)だと、金属を「削る」のではなく「押し潰す」ようになり、摩擦熱が増大し、構成刃先が発生しやすくなります。

さらに、ADC12はシリコン(Si)を9.6%~12.0%と多く含むため、工具の摩耗も激しくなります。このため、量産加工においては、超硬工具よりもはるかに硬く、アルミとの親和性(くっつきやすさ)が低いPCD(焼結ダイヤモンド)工具CBN(立方晶窒化ホウ素)工具の採用が、長期的な工具寿命と安定した加工品質の鍵となります。

対策2:切削条件(「遅すぎない」速度と適切な切削油)

意外に思われるかもしれませんが、アルミ切削において切削速度は遅すぎてはいけません。 構成刃先が最も発生しやすいのは、実は50~150 m/min程度の中低速域です。速度が遅すぎると、切りくずが刃先と摩擦する時間が長くなり、溶着しやすくなります。

対策は、切削速度を高速域(例:300 m/min以上、PCD工具なら1,000 m/minを超える場合もある)に設定することです。高速で切削することで、切りくずを素早く排出し、熱が刃先に蓄積する前に逃がします。 同時に、切削油(クーラント)の役割も重要です。単なる冷却だけでなく、刃先とアルミの間に油膜を作って溶着を防ぐ「潤滑性」と、切りくずを強力に洗い流す「洗浄性(吐出圧)」が求められます。

【タップ加工】溶着を防ぎ、安定したねじ山を実現する技術

切削加工と同様に、タップ加工(ねじ切り)においても最大の課題は「溶着」です。特にM3やM4といった小径のタップでは、溶着によってタップが折損し、製品がスクラップになるリスクが常に伴います。

課題:切削タップの溶着と切りくず詰まり

一般的な、切りくずを出しながらねじ山を削っていく「切削タップ」を使用する場合、以下の問題が発生します。

  • 溶着による折損:アルミがタップの刃に溶着し、切削抵抗が急増してタップが耐えきれずに折れます。
  • 切りくず詰まり:アルミの切りくずは長く延びやすいため、止まり穴(貫通していない穴)の底で詰まり、タップを破損させます。
  • ねじ山精度の悪化:溶着したアルミがねじ山をむしり、寸法不良や強度不足を引き起こします。

対策1:切削速度の最適化(速度を上げて溶着を防ぐ)

タップ加工においても、切削速度は重要です。アルミの場合、速度が遅すぎると摩擦熱で溶着しやすくなるため、適切なクーラント供給を前提に、切削速度を上げる(タップの回転数を上げる)ことが溶着防止に有効です(出典:株式会社新進)。

また、クーラントは「水溶性切削油」の濃度管理が重要です。希釈倍率が高すぎる(薄すぎる)と潤滑性が低下し、溶着の原因となります。

対策2:工具の使い分け(ロールタップによる塑性加工の検討)

アルミダイカストのタップ加工において、非常に有効な選択肢が「ロールタップ(転造タップ)」です。

ロールタップとは、刃物で削って切りくずを出すのではなく、タップを素材に押し当てて「盛り上げる」ことでねじ山を形成する工具です(塑性加工)。

  • メリット
    1. 切りくずが一切出ないため、切りくず詰まりによる折損トラブルがゼロになります。
    2. 塑性加工によってねじ山の組織が鍛えられ(加工硬化)、切削タップよりも強度の高いねじ山ができます。
  • デメリット
    1. 下穴の径管理が非常にシビア(切削タップより厳密)です。
    2. 切削タップよりも高いトルクが必要となります。

すべての箇所に使えるわけではありませんが、特に止まり穴や、切りくずを嫌うクリーンな環境(例:油圧部品)が求められる製品において、ロールタップの採用は品質と生産性を劇的に改善するノウハウです(出典:MISUMI-VONA)。

【表面処理】目的別に選定する「ADC12」の最適解

アルミダイカスト(ADC12)は、鋳造性を良くするためにシリコン(Si)を多く含んでいます。この「Siが多い」という特性が、表面処理を選定する上で最大の制約となります。

目的① 耐食性・塗装下地(化成処理:三価クロム)

最も一般的で低コストなのが「化成処理」です。製品を薬品に浸漬させ、表面に化学反応で薄い皮膜(数ミクロン以下)を形成します。

  • 特徴:主な目的は「耐食性の向上」と「塗装密着性の向上(塗装下地)」です。
  • 注意点:かつては「六価クロム」が主流でしたが、環境規制(RoHS指令など)により、現在は人体や環境への負荷が低い「三価クロム化成処理」(アロジン、パルコートなど)や、クロムを一切含まない「ノンクロム処理」が主流です。皮膜自体は非常に薄いため、耐摩耗性は期待できません。

目的② 耐摩耗性・絶縁性(アルマイト:ADC12の注意点)

アルマイト(陽極酸化皮膜)は、アルミニウムの表面に強固な酸化皮膜(Al₂O₃)を人工的に厚く生成する処理です。

  • メリット:皮膜が非常に硬く(硬質アルマイトの場合)、耐摩耗性が飛躍的に向上します。また、皮膜は電気を通さないため、絶縁性を持たせることができます。皮膜の微細な穴(ポーラス)に染料を染み込ませることで「黒アルマイト」などの着色も可能です。
  • ADC12の注意点アルマイトはADC12(Siが多いダイカスト材)とは非常に相性が悪いとされています。Siはアルマイト皮膜の生成を阻害するため、処理を行っても「色ムラ」「シミ」「ザラつき」が発生しやすく、均一で美しい外観を得るのが困難です(出典:株式会社OGANE)。もしADC12にアルマイト処理を行う場合は、専用の処理液や特殊なノウハウを持つ専門業者を選定する必要があります。

目的③ 意匠性・高耐食性(塗装:カチオン電着・粉体)

高い耐食性と美しい外観が同時に求められる場合、塗装が最適解となります。特に工業製品では以下の2つが多用されます。

  1. カチオン電着塗装: 塗料を満たしたプールに製品を浸漬させ、電気を流して塗料を付着させる方法。複雑な形状の隅々まで均一に塗膜が形成でき、密着性と耐食性に優れます。自動車部品の下塗りに広く使われています。
  2. 粉体塗装(パウダーコーティング): 粉末状の塗料を静電気で製品に付着させた後、高温で焼き付けて塗膜を形成します。塗膜が厚く(例:30〜100μm)、耐衝撃性や耐薬品性に優れ、塗料の再利用も可能なため環境負荷が低いのが特徴です。

二次加工のコストダウンを実現する「ワンストップ調達」という視点

これまで見てきたように、アルミダイカストの二次加工は、鋳造の特性を理解した上で初めて成り立つ、高度なノウハウの集合体です。

工程分散が引き起こす「見えないコスト」

調達担当者として、「鋳造はA社、切削はB社、表面処理はC社」と分離発注(工程分散)する戦略を取ることもあるかもしれません。しかし、これは以下の「見えないコスト」と「品質リスク」を増大させます。

  • 物流コスト:A社→B社→C社→自社という、3回以上の輸送コストとリードタイムが発生します。
  • 管理コスト:各社への発注、納期管理、受入検査の工数が3倍になります。
  • 品質責任の分断:切削加工で「巣」が出た場合、それが「鋳造の欠陥」なのか「切削のやり方が悪い」のか、責任の所在が曖昧になりがちです。
  • ノウハウの分断:B社(切削)はA社(鋳造)の金型のクセ(どこが歪みやすいか)を知らないため、最適な治具設計や加工順序を組むことができません。

ベトナムにおける一貫生産体制の優位性

この問題を解決するのが、「鋳造→切削→タップ→表面処理→検査」までを1社で完結させる「ワンストップ(一貫生産)調達」です。

特に、人件費と品質のバランスに優れるベトナムにおいて、この一貫生産体制を構築しているサプライヤーは、日本の調達担当者にとって強力なパートナーとなり得ます。鋳造部門と加工部門が日常的にフィードバックを行うことで、「鋳造の段階で、後工程(切削)が楽になるような改善」が日々行われます。

これにより、前述の「見えないコスト」が削減されるだけでなく、不良率の低減、リードタイムの短縮、そして品質責任の明確化が実現し、製品トータルの調達コスト(TCO:Total Cost of Ownership)を大幅に削減することが可能になります。

まとめ

アルミダイカスト製品の価値は、鋳造工程だけで決まるのではありません。むしろ、製品の最終的な寸法精度、機能性、耐久性を決定づけるのは、「切削」「タップ」「表面処理」といった二次加工の技術力です。特にアルミ特有の「構成刃先」や「溶着」といった課題を克服し、ADC12の材質的制約(Siの多さ)を理解した上で最適な表面処理を選定できるノウハウが、サプライヤーの品質を左右します。

調達・購買責任者の皆様におかれましては、サプライヤー選定の際、鋳造のコストや設備だけでなく、「二次加工のノウハウをどれだけ保有しているか」「品質トラブルに対して、鋳造と加工の両面から原因究明できる体制か」そして「ワンストップでどこまでの工程を内製化しているか」という視点を強く持つことを推奨します。

これらの二次加工を含めたトータルコストで調達先を見直すことが、貴社の製品競争力強化とコスト削減に直結する、確実な一手となるはずです。

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