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アルミダイカストの設計:強度、精度、薄肉化を実現するポイント【設計ノウハウ】

アルミダイカストは、溶融アルミニウム合金を金型に高速・高圧で注入し、複雑な形状の製品を効率的に製造する鋳造法です。自動車部品、家電製品、産業機器など、幅広い分野で利用されています。

ダイカスト設計においては、強度精度薄肉化の3要素をバランス良く実現することが重要です。強度は製品の耐久性を、精度は部品の嵌合や機能性を、薄肉化は軽量化やコスト削減に貢献します。

本記事では、アルミダイカスト設計における強度、精度、薄肉化を実現するための具体的な設計ノウハウを解説します。材料選定、構造設計、CAE解析、金型設計、成形条件、品質管理など、各工程におけるポイントをまとめ、実践的な情報を提供します。

強度設計

アルミダイカスト製品の強度設計は、製品の信頼性や安全性を確保する上で非常に重要な工程です。適切な材料選定、構造設計、CAE解析、表面処理などを組み合わせることで、要求される強度特性を満たす製品を実現できます。

項目 内容 ポイント
材料選定 ADC12、ADC10などの合金を使用 ADC12は機械的強度と鋳造性、ADC10は耐食性に優れる。添加元素で特性調整可能。実体強度評価で信頼性高い基準設定
構造設計 リブ、ボスを適切に配置 リブは応力分布などを考慮、ボスはインサートメタルに応じて肉厚設定。肉厚は均一が重要で1.0〜2.5mmが目安
CAE解析 FEM解析で強度評価 応力集中箇所を特定し疲労強度を予測
表面処理 アルマイト処理、ショットブラストなど アルマイト処理で耐食性・硬度向上、ショットブラストで疲労強度向上

材料選定

アルミダイカストに使用される合金は、ADC12やADC10などが一般的です。ADC12は、機械的強度が高く、鋳造性にも優れているため、幅広い用途で使用されます。ADC10は、耐食性に優れており、海洋環境や屋外で使用される製品に適しています。

合金の特性は、添加元素によって調整することができます。例えば、Cuを添加すると強度が高まりますが、耐食性が低下する傾向があります。用途に応じて適切な合金を選定することが重要です。

材料強度基準の設定も重要な工程です。実体強度評価を行い、実際の製品と同等の製造条件で作成された試験片を用いて強度評価を行うことで、信頼性の高い基準を設定することができます。

構造設計

構造設計は、製品の強度を確保する上で重要な要素です。リブやボスを適切に配置することで、剛性を高めつつ軽量化を図ることができます。

リブは、応力分布、リブの構造、リブ断面の形状、環境温度などを考慮して設計する必要があります。ボスの肉厚は、厚すぎるとヒケが発生し、薄すぎると締結力が低下する可能性があるため、インサートメタルの材質に応じて適切な肉厚を設定する必要があります。

肉厚は均一にすることが重要で、急激な厚みの変化は応力集中を引き起こす可能性があります。推奨範囲は用途に応じて調整しますが、一般的には1.0〜2.5mm程度が目安となります。

CAE解析

CAE(Computer Aided Engineering)解析は、部材強度評価を製品設計に活用するために用いられます。FEM(有限要素法)解析を用いて得られた結果から強度評価を行い、最終段階で試作による製品評価を行うという設計プロセスが有効です。

CAE解析では、応力集中が発生しやすい箇所を特定し、疲労強度を予測することが重要です。

表面処理

アルミダイカストの表面処理には、めっき、研磨、化成処理、塗装、アルマイトなどがあります。アルマイト処理は、耐食性や硬度を高める効果があり、製品の寿命を延ばすことができます。

ショットブラストは、表面の微細な欠陥を除去し、疲労強度を向上させる効果があります。

精度設計

アルミダイカスト製品の精度は、製品の機能性や組み立て性を左右する重要な要素です。高い精度を実現するためには、金型設計、成形条件、寸法精度管理、品質管理など、様々な要素を考慮する必要があります。

項目 内容 ポイント
金型設計 ゲート位置とランナー形状、冷却システム ゲート位置は均等な充填を可能にする場所に配置、ランナー形状は流れをスムーズにするように設計。冷却効率を高めることで凝固速度を制御し、寸法精度を向上
成形条件 温度(溶湯温度、金型温度)、圧力、射出速度 溶湯温度や金型温度を適切に管理することで、収縮や欠陥を抑制。高圧ダイカストでは、圧力が100~200MPaに達することが一般的。適切な速度で金属を射出することで、気泡や欠陥を防ぎます。
寸法精度 公差、収縮 アルミダイカストの寸法公差は±0.1~0.2mm程度が一般的。収縮率は約0.6~0.8%で、設計時に考慮
品質管理 検査と測定 CTスキャナーや三次元測定機を使用して、内部欠陥や寸法精度を確認。不良品の発生を抑制

金型設計

金型設計は、製品の精度に大きな影響を与える要素の一つです。ゲート位置とランナー形状は、溶融金属の流動性を最適化し、均一な充填を可能にするように設計する必要があります。ゲート位置は、製品の形状やサイズ、肉厚などを考慮して決定します。ランナー形状は、溶融金属がスムーズに流れ、乱流を抑制するように設計します。

冷却システムは、金型内の温度を均一に保ち、凝固速度を制御することで、寸法精度を向上させる役割を果たします。冷却システムの設計は、金型の材質や形状、製品の肉厚などを考慮して行います。

成形条件

成形条件は、製品の精度に影響を与えるもう一つの重要な要素です。溶湯温度や金型温度を適切に管理することで、収縮や欠陥を抑制することができます。溶湯温度は、合金の種類や製品の形状、肉厚などを考慮して設定します。金型温度は、溶融金属の凝固速度を制御し、寸法精度を向上させるために管理します。

高圧ダイカストでは、圧力を100〜200MPaに達することが一般的です。適切な圧力で金属を射出することで、気泡や欠陥を防ぎ、製品の密度を高めることができます。

射出速度も製品の精度に影響を与えます。適切な速度で金属を射出することで、気泡や欠陥を防ぎ、均一な充填を促進することができます。

寸法精度

寸法精度を確保するためには、公差や収縮を考慮した設計が必要です。アルミダイカストの寸法公差は±0.1〜0.2mm程度が一般的です。収縮率は約0.6〜0.8%で、設計時に考慮する必要があります。

品質管理

品質管理も重要な要素です。検査や測定を通じて、製品の精度を維持する必要があります。CTスキャナーや三次元測定機を使用して、内部欠陥や寸法精度を確認します。これにより、不良品の発生を抑制し、製品の品質を保証することができます。

薄肉化設計

近年、環境意識の高まりから、製品の軽量化が求められる傾向にあります。アルミダイカストにおいても、薄肉化設計は重要なテーマの一つです。薄肉化は、材料の使用量を減らすことでコスト削減に繋がるだけでなく、製品の軽量化による燃費向上や運動性能向上にも貢献します。

項目 内容 ポイント
製品設計 薄肉化可能な箇所、形状の工夫 応力集中しない箇所や剛性不要な部分を薄くする。リブや補強構造で強度低下を補う
成形技術 高圧ダイカスト、真空ダイカスト 高圧ダイカストで薄肉部品成形(0.6mm程度)、真空ダイカストで気泡・欠陥防止
金型設計 金型の温度制御、流路設計 金型温度管理で凝固制御、流路設計で均一充填
材料特性 高強度合金 薄肉化による強度低下を抑制

製品設計

薄肉化設計においては、まず薄肉化可能な箇所を検討します。応力が集中しない箇所や、剛性が不要な部分を薄くすることで、強度を維持しつつ軽量化を図ることができます。

形状の工夫も薄肉化設計の重要な要素です。リブや補強構造を適切に追加することで、薄肉化による強度低下を補うことができます。リブは、製品の剛性を高めるだけでなく、溶融金属の流れを改善する効果もあります。

成形技術

高圧ダイカストは、高い圧力を利用して薄肉部品を成形する技術です。0.6mm程度の薄肉化も可能であり、軽量化に大きく貢献します。

真空ダイカストは、金型内の空気を除去することで、気泡や欠陥を防ぎ、薄肉部品の品質を向上させる技術です。薄肉化による強度低下を抑制し、より高品質な製品を製造することができます。

金型設計

薄肉部品を成形するためには、金型の温度制御流路設計を最適化する必要があります。金型温度を適切に管理することで、溶融金属の凝固を制御し、薄肉部への充填を促進することができます。流路設計は、溶融金属がスムーズに流れ、均一に充填されるように工夫する必要があります。

材料特性

薄肉化によって剛性が低下するため、強度を補うために高強度合金を選定することも有効な手段です。高強度合金は、薄肉化による強度低下を抑制し、より軽量で高強度な製品を実現します。

薄肉化設計は、製品の軽量化やコスト削減に貢献する重要な技術ですが、強度低下や品質管理などの課題も存在します。適切な設計手法や成形技術を選定し、材料特性を考慮することで、薄肉化によるデメリットを最小限に抑え、高品質な製品を製造することができます。

その他の考慮事項

アルミダイカスト設計においては、強度、精度、薄肉化以外にも、考慮すべき事項がいくつか存在します。これらの要素を適切に考慮することで、より高品質で高性能な製品を実現することができます。

項目 内容 ポイント
応力集中 角部や穴部など形状変化箇所に発生しやすい フィレット(曲面)を設けるなどの対策
熱処理 強度や靭性を向上 溶体化処理、析出硬化処理など、合金や要求特性に応じた熱処理を選択
表面処理 耐食性、耐摩耗性、意匠性を向上 めっき、研磨、化成処理、塗装、アルマイトなど
軽量化のメリット 輸送コスト削減、環境負荷低減 燃費向上効果も期待できる
複雑形状の実現 一体成形が可能 部品点数削減、組立工数削減、コストダウン、品質向上
グローバル生産対応 海外拠点でも同様の品質で生産可能 グローバルなニーズに対応

応力集中

応力集中は、製品の性能や安全性に影響を与える重要な要素です。特に、角部や穴部など形状が変化する箇所に発生しやすく、疲労破壊の原因となる可能性があります。設計段階で応力集中が発生しやすい箇所を特定し、フィレット(曲面)を設けるなどの対策を講じる必要があります。

熱処理

アルミダイカストに熱処理を施すことで、強度や靭性を向上させることができます。熱処理には、溶体化処理、析出硬化処理などがあり、合金の種類や要求特性に応じて適切な熱処理を選択する必要があります。

表面処理

めっき、研磨、化成処理、塗装、アルマイトなど、様々な表面処理を施すことで、耐食性、耐摩耗性、意匠性を向上させることができます。アルマイト処理は、耐食性や硬度を高める効果があり、屋外で使用される製品や、高い耐久性が求められる製品に適しています。

軽量化のメリット

薄肉化と軽量化は、輸送コストの削減や環境負荷の低減に貢献します。自動車部品などでは、軽量化による燃費向上効果も期待できます。

複雑形状の実現

ダイカスト技術は、複雑な形状を一体成形できるため、部品点数の削減や組立工数の削減に寄与します。これにより、製品のコストダウンや品質向上に繋がります。

グローバル生産対応

日本国内だけでなく、海外拠点でも同様の品質で生産可能な体制を整えることで、グローバルなニーズに対応することができます。

これらのその他の考慮事項を適切に管理することで、アルミダイカスト製品の品質、性能、コスト、納期、そしてグローバルな対応力を高めることができます。

まとめ

アルミダイカスト設計では、強度・精度・薄肉化のバランスが重要です。本記事では、材料選定、構造設計、CAE解析、金型設計、成形条件、品質管理、薄肉化設計等のノウハウを解説。設計段階からの品質確保が重要であり、最新技術の活用で高品質・高機能な製品を効率的に製造できます。アルミダイカスト技術は今後ますます発展し、本記事が設計に携わる皆様の一助となれば幸いです。

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