◆目次
Toggleベトナムでアルミダイカストを行う理由
ベトナムが選ばれる理由は、①コスト、②品質、③物流、④FTAの四点に整理できます。まずコストです。地域別最低賃金は2024年7月1日に平均+6%改定となりましたが、工程設計と自動化の組み合わせにより、型償却・サイクルタイム・輸送費を含む総コストを依然として引き下げやすい状況です。為替面でも、VND建て契約や部材の現地化を進めることで、JPY・USDの変動影響を平準化しやすくなります。次に品質です。IATF 16949(自動車産業の品質マネジメント規格)に沿った運用が普及し、金型メンテナンスやゲート最適化、工程内のX線/CT検査までを一体で回しやすい環境が整っています。物流では、LPI 2023の客観指標を活用しつつ、南部のカイメップ・ティバイ深水港群の活用により直行ルートを取りやすく、積み替え回数とリードタイムの削減が図れます。最後にFTAです。EVFTA(2020年8月1日発効)とRCEP(2022年1月1日発効)により、関税面のメリットや域内累積の活用が可能です。これら四要素を同時に設計することで、不良率の低減×LT短縮×総コスト最適化の再現性を高められます。
現地調達×SCM設計
現地調達の効果は、①コスト削減(TCO=型償却+サイクルタイム+歩留まり+在庫+輸送・関税)、②LT短縮(内外作業の並行化と近距離搬送)、③安定化(現地在庫と代替サプライヤー確保)の三点です。まず、内製と外注の線引きを定めます。たとえば、鋳造条件最適化・金型保全・主要測定は内製、特殊表面処理は外注、X線/CTは数量に応じて自社設備と認定外部を併用する、といった方針です。品質とサプライヤー育成は、工程監査→CP/Cpk→PPAP(量産承認)レベル3→初品承認→量産監視を短サイクルで回します。CTQ(重要品質特性)はゲート位置・金型温度・充填圧などを数値タグでBoM(部品表)に紐づけ、異常時は8Dで是正します。調達・物流では、工場から港/空港までの動脈設計と、OTD 95%以上・ASN(出荷予定通知)精度99%以上・CFSカットオフ遵守率98%以上をKPIに据えると管理が安定します。月次S&OPで需要変動を吸収し、安全在庫は需要の標準偏差と補給LTから再計算します。あわせてVAS(付加価値サービス)の標準時間や通関前書類の完全率もKPI化すると効果的です。
Data Box(一次URL・要点)
- 最低賃金(地域Ⅰ〜Ⅳ):2024年7月1日改定(例:地域Ⅰ 4,960,000 VND/月)
- EVFTA発効日:2020年8月1日
- RCEP発効日:2022年1月1日
- LPI 2023:139か国比較の国際物流指標
(※本文の出典一覧をご参照ください)
事例①:大和軽金属ベトナム
当社は、金型設計・製作→鋳造→二次加工(切削・タップ・研磨)→表面処理→検査までを一貫体制で運用しています。金型は日越協業で設計(DFM/流動解析)し、初期トライは現地で実施します。鋳造はADC12が中心で、ショットブラスト、バリ取り、CNC加工、リーク試験、外観・寸法検査、必要に応じてX線/CTを組み合わせます。副資材・治具・切削工具は原則として現地調達し、特殊材のみ日系指定品を併用します。成果として、量産立ち上げ後にリードタイム20〜30%短縮、海上一貫化で輸送費15〜25%削減を目安に再現しています。価格式の一部をVND建てに切り替えることで為替感応度も平準化します。標準類(型番管理、条件票、保全基準)で工程を固定化し、初期不良の早期摘出→是正を繰り返すことで、量産PPMを安定的に低減しています。
量産移管の主なマイルストーン
1)キックオフ:要件すり合わせ/CTQ定義
2)DFM・解析:ゲート・溢流・冷却設計(5〜10営業日)
3)金型製作:単腔 6〜8週、多腔(スライド多)10〜12週
4)T0→T1→T2:欠陥対策→加工治具合わせ→量産条件確定
5)PPAP(レベル3):図番・材料証明・工程能力(Cp/Cpk≥1.33目安)提出→初品承認
6)SOP前監査:予備品・消耗品の在庫化、輸送バッファ設定
事例②:競合・ローカルの学び
HAL Vietnamは、350〜800t中心でダイカストマシン62台を保有し、ロボット併設による鋳造〜仕上げ〜機械加工〜部分組立までの一貫体制を敷いています。IATF 16949/ISO 14001に基づく運用で、段取り短縮と自働化を前提に量産を安定させています。Viet Thanhは、IATF 16949/ISO 9001/ISO 14001を明示し、ノイバイ空港約10分/ハイフォン港約90分の立地優位を活かして表面処理まで巻き取る体制が特長です。コンヒラの購買事例は、効果→根拠→画像の順でメリットを可視化する構成が参考になります。三者の比較から、大ロット×安定量はHAL、多品種×表面仕上げ同時管理はViet Thanh、社内説得資料はコンヒラ型の可視化が適しています。
成功事例(モデルケース)
現地調達と工程内品質保証を連動し、監査→FMEA→PPAP(レベル3)→初品承認→量産監視を4週サイクルで運用しました。鋳造条件票と金型保全台帳を統合し、材料・治具の現地標準化で輸送回数を半減。立ち上げ3か月で、不良率30%低減/出荷LT20%短縮/海上輸送費15%削減を達成し、価格式のVND建て60%化で為替影響も抑制しました。
失敗事例(教訓)
EU向け量産でサプライヤーがボルト材を無通告で切り替え、BoM(部品表)未更新のままEVFTA適用を申告した結果、原産地要件を満たせず関税3〜6%の追徴と通関差戻しが発生し、納期が5日遅延しました。再発防止として、①サプライヤー別BoMに原産地タグを付与、②設計変更時のROO(原産地規則)再判定ゲート設置、③出荷前チェックリスト(HS確定/RVCまたはCTH計算/REXまたはEUR.1確認/搭載前監査)を標準化します。
まとめ
本稿の要点は、コスト×品質×LT×FTAを同時に最適化する設計思考です。金型と条件を適切に固定し、現地調達と工程内品質保証を連動させることで、PPMとLTを同時に下げながら、為替・関税リスクを抑制できます。次のアクションとして、需要変動・年産量・目標PPM・希望LT・輸送モード・FTA適用可否を入力する診断シートをご活用ください。概算のQCDS(品質・コスト・納期・サービス)と主要リスク/打ち手を可視化し、初回監査チェックリストやBoM原産地マップの雛形と併用することで、社内合意形成を素早く進められます。