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アルミダイカストと亜鉛ダイカストの違い:コスト・性能・用途

はじめに

製造業において、部品の軽量化、コスト削減、そして機能性の向上は永遠の課題です。その解決策として欠かせないのが、ダイカスト(ダイカスト:溶融した金属を金型に高圧で流し込み、短時間で成形する鋳造技術)です。特に、アルミダイカストと亜鉛ダイカストは、製造現場で頻繁に比較検討される2大材料です。両者は一見似ていますが、その特性は大きく異なります。

本稿では、日本の製造業の経営者や調達・購買責任者の皆様が、最適な材料選定を行うための判断材料を提供します。コスト、性能、用途という3つの観点から、アルミと亜鉛のダイカスト部品の明確な違いを解説します。この情報を活用することで、製品の要求仕様とコストパフォーマンスを両立させ、競争力を高めるための重要なヒントを得られるでしょう。

アルミと亜鉛:物理的・化学的特性から見る根本的な違い

比重と重量:軽さか、重厚さか

アルミと亜鉛の最も顕著な違いは、その比重にあります。アルミニウムの比重が約2.7g/cm³であるのに対し、亜鉛は約6.6g/cm³と、アルミニウムの約2.4倍も重いのです。この物理的な差が、それぞれのダイカスト部品の用途を決定づける重要な要素となります。

アルミダイカストは、その軽量性を活かして、自動車のエンジン部品、航空機や鉄道車両の構造材、電子機器の筐体など、軽量化が求められる分野で広く採用されています。車体の軽量化は燃費向上に直結するため、特に自動車業界ではアルミダイカストの需要が年々増加しています。

一方、亜鉛ダイカストは、適度な重さと高剛性を活かし、機械部品や精密機器の筐体、建材などに利用されます。重量感のある高級な手触りや、安定した重心が必要な製品(例:カメラのボディ、高級家具の取っ手)に適しています。

融点と鋳造方法:生産効率と金型寿命

融点の違いは、ダイカストプロセスの根幹を左右します。アルミニウムの融点が約660℃と高いのに対し、亜鉛の融点は約420℃と比較的低いです。この差が、使用する鋳造機と生産効率に大きな影響を与えます。

アルミダイカストでは、融点が高い液体アルミニウムを高圧で射出するため、耐熱性の高い「コールドチャンバーダイカストマシン」が使用されます。このプロセスは、アルミの硬度ゆえに金型への摩耗が大きく、金型寿命は一般的に7万~10万ショット程度とされています。

対照的に、亜鉛ダイカストは融点が低いため、シリンダーが溶湯に浸漬する「ホットチャンバーダイカストマシン」が使用されます。この方式は、アルミに比べてサイクルタイムが短く、生産性が高いのが特長です。また、金型への熱負荷が低いため、金型寿命はアルミの2倍以上になることも珍しくありません。これは、特に大量生産を行う際の製造コストに大きく影響します。

コスト、性能、リサイクル性の比較

製造コスト:初期投資とランニングコスト

ダイカスト部品のコストは、材料費、金型費、そして製造プロセスのランニングコストの総合で決まります。

初期費用では、アルミダイカストの方が高額になる傾向があります。これは、耐熱性の高い金型材料が必要であることや、金型の摩耗が早いため交換頻度が高いことに起因します。一方、亜鉛は金型寿命が長いため、金型1ショットあたりのコストが低く、初期費用を抑えたい場合や大量生産に向いています

ランニングコストでは、アルミダイカストは融点が高いため、炉を高温に維持するためのエネルギーコストがかかります。これに対し、亜鉛ダイカストは融点が低いため、エネルギー消費が少なく、製造コストの削減に貢献します。

機械的性能:強度か、精度か

強度 アルミニウムは、単位重量あたりの強度(比強度)が高く、軽量でありながら高い強度を求められる構造部品に適しています。亜鉛は比重が重く、全体的な引張強度は亜鉛の方が高い場合がありますが、軽量化が求められる製品ではアルミの比強度が有利です。

耐衝撃性 亜鉛は高い硬度と優れた耐衝撃性を併せ持つのが特長です。この特性は、外部からの衝撃が想定される部品、例えば自動車の衝突安全部品や、耐久性が求められる産業機械の筐体などで大きな強みとなります。

寸法精度と流動性 亜鉛合金は流動性が極めて高く、薄肉で複雑な形状の部品でも、高精度に成形することができます。また、凝固収縮率が低いため、寸法安定性に優れており、ネジ穴などの細かいディテールも精密に再現可能です。このため、コネクタや小型の電子部品、装飾品など、高い精度が求められる製品で威力を発揮します。

リサイクル性:持続可能な製造への貢献

アルミニウムも亜鉛も、優れたリサイクル性を持つ金属です。

アルミニウムは、リサイクルにかかるエネルギーがボーキサイトから新しくアルミを製造する場合に比べて**わずか3%**にすぎません。ダイカストの不良品や切削くずなども再溶解して再利用できるため、環境負荷の低減に大きく貢献します。

亜鉛もまた、ほぼ100%リサイクル可能な金属です。融点が低いため、再溶解に必要なエネルギーが少なく、リサイクルプロセスも効率的です。

用途事例:適切な材料選定が製品の成功を左右する

アルミダイカストの主要用途

  • 自動車部品: エンジンブロック、トランスミッションケース、ホイール、サスペンション部品など、軽量化による燃費改善が求められる部品。
  • 電子機器: スマートフォンやPCの筐体、LED照明のヒートシンク(放熱板)。優れた熱伝導性を活かし、熱を効率的に放散します。
  • 建築資材: 窓枠、手すりなど、耐食性と強度が必要な屋外部品。

亜鉛ダイカストの主要用途

  • 小型電子部品: コネクタ、スイッチ、USBポートなど、高い寸法精度が求められる部品。
  • 家具・装飾品: ドアノブ、取っ手、ヒンジなど、重量感と複雑なデザインが求められる部品。
  • 精密機械部品: ベアリングのハウジング、ギヤ、工具の部品など、高い硬度と耐摩耗性が求められる部品。

まとめ

アルミダイカストと亜鉛ダイカストは、それぞれが固有の強みと弱みを持ち、部品の要求仕様、生産数量、そしてコスト目標に応じて最適な選択肢が異なります。

軽量化と高強度を両立させたい、屋外で使用するため優れた耐食性が必要、熱を効率的に放散させたいといった場合には、アルミダイカストが最適です。特に自動車産業や航空宇宙産業における軽量化ニーズの高まりから、アルミダイカストの市場は今後も拡大が見込まれます。

一方、複雑で精密な形状の部品を製造したい、高い硬度や耐衝撃性が必要、初期金型コストを抑えて大量生産したいといった場合には、亜鉛ダイカストが優れた選択肢となります。その高い鋳造性から、家電や小型電子機器、装飾品など、多岐にわたる分野でその価値を発揮し続けます。

適切なダイカスト材料の選定は、製品の性能、コスト、そして市場競争力を大きく左右します。自社の製品開発において、これらの特性を深く理解し、最適なパートナーを選定することが、成功への第一歩となるでしょう。

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