アルミ鋳造、鋳物、金型を一貫請負

ベトナムでのアルミ金型製作事例:短納期と低コスト

製造業において「短納期」と「低コスト」を両立させることは、グローバル競争が激化する現代において避けて通れないテーマです。日本国内では、熟練人材の不足や人件費・エネルギーコストの上昇により、金型製作のリードタイムやコスト削減に限界が見え始めています。この状況で注目されているのが、ベトナムでのアルミ金型製作です。

ベトナムは若年労働力の豊富さ、政府の投資優遇政策、ASEAN圏における物流上の優位性を兼ね備えており、日本企業の調達先として急速に存在感を高めています。さらに近年は、日系企業や現地大手が最新の加工設備や品質管理体制を導入し、精度・信頼性の面でも実績を積み上げてきました。

本記事では、ベトナムにおけるアルミ金型製作のメリットと課題を整理しつつ、短納期を実現する仕組みやコスト削減の実績、さらに成功・失敗事例を紹介します。調達戦略を検討する皆さまにとって、実務に役立つ指針となることを目指しています。

ベトナムでアルミ金型を製作するメリットと課題

ベトナムでアルミ金型を製作する最大のメリットは、まず 人件費の低さ です。現地労働者の平均賃金は日本の約1/3〜1/4とされ、人手が多く必要な金型工程では大きな差が出ます。加えて若年層の労働力が豊富であり、長期的に安定した人材確保が可能です。さらにベトナム政府は法人税減免や土地使用料の優遇策を提供し、工場建設や設備投資を後押ししています。

設備投資の面でも、日本国内に比べ導入・維持コストが低く、CNCや3Dプリンタを活用した高精度加工が普及しています。ASEANの中心に位置する地理的条件から、輸出拠点としての利便性も大きな魅力です。

一方、課題も明確です。高度な設計や精密加工を担える技術者はまだ少なく、技術レベルに差がある のが実情です。またISO認証を取得していても、現場の運用レベルにばらつきが見られる場合があります。特に短納期案件では、検査が後回しになり不良率が高まるリスクが懸念されます。

さらに、電力供給の不安定さや港湾設備の制限といった インフラ面の制約 も無視できません。大型金型や大量生産品では輸送計画の緻密さが重要になります。総じて、ベトナムでの金型製作は「低コストと若い人材」という強みと、「技術力やインフラの制約」という課題が表裏一体で存在するといえます。

短納期を実現する仕組みと事例

ベトナム工場の特徴は、設計から鋳造、加工、表面処理までを一貫生産できる体制 にあります。これにより外注や輸送を挟むことなく、納期を大幅に短縮することが可能です。

加えて、3DプリンタやCNC加工機 の活用が進んでいます。CADデータから即日試作を行い、数日で評価が可能な体制を整えることで、従来数週間かかっていた工程を1週間程度に圧縮できます。夜間自動稼働が可能なCNC導入も、試作から量産立ち上げのスピードを加速させています。

実例では、ホーチミン郊外に新工場を設立したA社が外注依存から脱却し、リードタイムを約30%短縮。納期遵守率は95%以上に改善しました。別の企業では3Dプリンタ試作導入により、初期金型製作期間を4週間から2週間に半減し、迅速な量産移行を実現しました。

ただし短納期案件では、品質保証の軽視がリスクとなります。そのため、多くの企業はISO9001やIATF16949に基づいた 工程内検査と最終検査の両立 を徹底し、短納期と品質の両立を図っています。

コスト削減の実績と数値データ

ベトナムでのアルミ金型製作は、総合的に25〜35%のコスト削減 が可能とされます。

  • 人件費:日本比で約▲65〜75%
  • 外注から内製化:製作コスト▲20%
  • 現地調達比率の向上:物流コスト▲10〜15%
  • 設備投資コスト:日本比▲30〜40%

ある企業は設計から加工、表面処理までを自社で完結させ、従来比で20%のコスト削減に成功しました。また、部材の60%以上をベトナム国内調達に切り替え、物流コストを15%圧縮した事例もあります。

単なる「人件費差」ではなく、一貫体制と現地調達を組み合わせた構造的競争力 が、持続的なコスト削減を支えています。

成功事例

大和軽金属ベトナム

ISO9001に基づく品質管理と日本式QC手法を導入し、納期遵守率95%以上を維持。日本品質を現地で再現した点が評価されています。

A社

ホーチミン郊外に新工場を設立し、設計から表面処理まで内製化。輸送・調整コストを削減し、20%のコスト削減と30%の納期短縮 を実現しました。

S社

表面処理を含む一貫体制を確立し、顧客とのやり取りを簡略化。自動車・家電分野の大手企業から長期契約を獲得しています。

失敗・リスク事例と対策

品質トラブル

寸法精度不良や鋳巣(内部に空洞が生じる欠陥)が発生し、納期遅延を招いた例があります。対策として、日本式QC工程表とX線検査を導入し、不良率を大幅に改善しました。

法規制・輸出入手続き

輸出許可の不備で製品が港に足止めされる事例も報告されています。現地法律事務所やコンサルタントと連携し、法規制情報を常に更新する仕組みが有効です。

文化・言語ギャップ

設計意図の誤解で仕様違いの金型が完成した例もあります。対策としては、日本語とベトナム語双方を理解する通訳や「ブリッジSE(日越間の技術橋渡しを担うエンジニア)」の配置、さらにオンライン翻訳・共有ツールの活用が効果的です。

まとめ

ベトナムでのアルミ金型製作は、短納期と低コストを両立する有力な戦略 です。人件費の低さに加え、一貫体制や現地調達によって25〜35%のコスト削減が可能であり、3DプリンタやCNC活用によりリードタイムの短縮も実現しています。

一方で、技術者不足や品質管理のばらつき、法規制や文化的ギャップといったリスクも存在します。成功企業は「日本式管理」と「現地効率化」を融合したハイブリッド体制を築き、競争力を確保しています。

今後、ベトナムの製造インフラや技術水準が向上すれば、アルミ金型製作のグローバル拠点としての役割はさらに拡大するでしょう。ベトナムを「単なるコスト削減先」ではなく「競争力強化のパートナー」として位置づける視点が求められます。

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